ストーリー
シーズン・オフのリゾート地を、一台の列車が往く。規則的な車輪の振動を刻む車内の座席には、年季を感じさせる革ジャンを身にまとったひとりの中年男(ジョニー・アリディ)が、額に皺深く刻み込まれた憂愁の面差しで坐っている。時折、その振動に耐えかねるかのように、苦痛の表情を浮かべ、こみかみに手を当てる男。激しい頭痛なのだろうか、あえぐように取り出したピローケースに、しかし錠剤は入っていない。
やがて、誰ひとり乗客もいないプラットフォームに静かに滑り込んだ列車から、身体を引き摺るように転がり降りたその男は、疲れきった表情で、暮色の影の濃い街に出る。商店街は、次々と店じまいに慌しく、ようやく一軒のドラッグストアに足を踏み入れた彼は、店の奥から「狭心症の薬は、在庫切れでした」との店員の声を耳にし、振り返ると、そこにひとりの初老の男(ジャン・ロシュフォール)がいた。「アスピリン」。ぶっきらぼうに店員に注文した革ジャンの男を見た初老の男の表情が、微妙に変化した。「また寄るよ、じゃあ」
ほぼ同時に店を出たふたりの男。歩きながら、「発砲錠を渡しやがった」と吐き捨てる革ジャンの男の悪態を耳にした初老の男は、「水が要るね、うちで飲むかね」と応じる。これが、ふたりの運命の出会いの最初の会話だった。革ジャンの男の名はミラン、初老の男はマネスキエ。しかし、彼らは互いに自己紹介することさえない。