ストーリー
過ぎ去りし日、中学校の教室で、大場美奈子の作文が読み上げられる。
「…お兄さんやお姉さんたちはこの町を出て行くけれど、私は出ていかない。一生この町で生きていく…」
時は流れ、モザイクタイルのように山肌に家々が張りつく、まだ夜の明けきらない町。坂道を古びた自転車で走る女性。50歳になった大場美奈子だ。牛乳販売店に着くと、店主と一緒に軽トラックに牛乳を積み込み、出発。ある地点で美奈子は降り、ズック袋に牛乳を入れ、坂道を登る。玄関先の牛乳箱を開け、空き瓶を取り出し、新しい牛乳瓶を入れる。
独身の美奈子は、牛乳配達を終えるとスーパーに出勤してレジを打つ。夜は本がたくさん詰まった家でひとり過ごす。そんな美奈子を見守っているのは、亡き母親の友人だった皆川敏子だ。敏子は痴呆症にかかった夫の真男を介護しながら小説を書いている。毎朝、美奈子は敏子の家にも牛乳を配達する。
美奈子は、中学の同級生だった高梨槐多の家にも牛乳を届ける。市役所の福祉課に勤務する槐多は、末期癌の妻、容子を自宅で看病している。かつて高校時代、美奈子と槐多は付き合っていたのだが、美奈子の母親と槐多の父親が自転車に2人乗りして交通事故に遭い亡くなったことから、疎遠になってしまった。だが美奈子はずっと槐多への思いを胸に抱きつづけてきたのだ。
その思いを美奈子はラジオのDJに匿名で書き綴る。「私には大切な人がいます。でも私の気持ちは絶対に知られてはならないのです…」
その告白をラジオで耳にした容子はすべてを悟る。夫もまた美奈子を思い続けてきたからこそ、飲めない牛乳の配達をやめないことも。そして容子は、ある決意をする。