ストーリー
新人パティシエ・キヨハラ(北川景子)の最近の悩みは店の人気メニューチェリーパイ≠ェうまく作れなくなってしまったこと。今日もひとり閉店後厨房に残って鍋で煮立つチェリージャムを味見したキヨハラ、ふーっとため息をつく。何度作り直しても「あの味」にならない。その甘酸っぱい味がある想い出を鮮明に呼び起こすからだ。振り返った視線の先には、棚に大事に飾られたチェリージャムの瓶とパティシエの制服そして背高帽がある。胸元には「辻内徹」の刺繍。
そこへ一本の電話が鳴る。以前契約していた山梨のサクランボ農家の娘・木下千春(肘井美佳)からであった。辻内透から頼まれたものを預かっており、一度農園に来てほしいと言う。電話を終えて考え込むキヨハラ。調理台でパイ生地を練っていていきなり顔がゆがむ。自分でも意識しないままに大粒の涙がこぼれてくる。
キヨハラがこの店に入ったのは高校を卒業してすぐのことで、店の人気メニューのチェリーパイに魅せられたからだった。パリパリと唇にくっつくパイのカケラ、舌の上でゆっくりと溶けて広がるバターの香り、そして店特製の大粒の甘酸っぱいチェリージャム。押しかけるようにして働き始めたキヨハラに全てを一から教えたのが先輩パティシエの辻内透(岡田浩暉)だった。ぶっきらぼうだが根は優しく、いち早く彼女の素質を見抜いて辛抱強く教えてくれた辻内に、キヨハラはいつしか尊敬を越えた恋心を抱くようになっていた。だが、一年前のちょうどこの時期、大雨の影響で車の事故に巻き込まれた辻内は永遠に帰らぬ人になってしまったのだった。